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趣旨・目的

現在、IPE(=Interprofessional Education;専門職間連携教育)において先進国とされるイギリスにおいても、その推進には不幸な事件が背景にある。

2000年2月、8歳の女児が叔母らによって虐待の末凍死し、裁判では、虐待者だけでなく、担当したソーシャルワーカーも有罪となったことで注目された。延べ13人の専門職がかかわっていたにも関わらず、専門職間でのコミュニケーションの不足や連携の失敗が原因とされた。この事件を受け、2002年ブレア政権は、IPEの推進のための予算を計上し、現在イギリスの医療福祉系大学ではIPEが必修化されている。

日本においても従来から、保健、医療、福祉3分野の連携の必要性が叫ばれてきた。介護やケアについては3分野それぞれからアプローチが試みられ、連携・協働も一部には認められる。しかしサービスの利用者にとっては、それぞれの分野から個々に提供されているという誤解を免れず、現場において専門職間協働(IPW:Interprofessional Work)が保たれているとは言い難い。

将来のIPWを目指した日本の大学におけるIPEでは、これまで地域に学生のチームが出向いて、事例についてチーム討議することが主体であった。平成17年度からの新潟大学医学部の「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成」などがその例としてあげられ、また、埼玉県立大学のいわゆる「連携統合プロジェクト」では、4年生全員が参加する地域でのIPE演習を平成21年度に本格的な実施に移行した。

しかし、このような“地域型”ではチームを編成して出向いても、専門職を目指す学生すべてに完全に適合した事例が地元から提供されるとは限らない。こうした実態を踏まえ、本学が平成16年から試行してきた「総合ゼミ」では、患者及び障害者ご本人、模擬患者のビデオ、バーチャル事例などを、解決すべき課題を有する事例教材(モジュール)の中心型として採用することで、以下にあげる多くの教育的利点を生み出すことができた。

  1. 標準化によって課題の質が保証できる
  2. 模擬患者やバーチャル事例では課題の変更が容易であり、ご本人の了解が必要ない
  3. 学生が希望する事例を選択して受講できる
  4. 事前の自習が可能である
  5. 地域型との併用や事前演習が可能である
  6. データベース化によるアクセスが容易である

しかしながら、本学単体での既存モジュールだけでは不十分であり、更なる充実のためにはより多くのモジュールを集積する必要がある。そこで、本事業では、連携大学などとの連携により、より多くのモジュールを集積し、さらに、イギリスで開発されたバーチャル例も参考にし、標準的なモジュールを共同開発しデータベースとして蓄積する。そして、実際のチーム演習の成果から改善を図り、連携大学以外にも全国に公開していくことを目的とする。また、基盤整備として教員であるファシリテーターの養成および遠隔地の大学もネットワークを利用し応募できるIPE運営システムの構築が不可欠であることから、これら基盤整備についても取り組んでいく。

IPEは「ともに学びながら、お互いについて学ぶ」ことを目的としている。専門知識を有しながら他の専門職について理解し、チームとして問題解決できる能力を涵養しない限り、多様化、深刻化している諸問題に対処していくことはできない。IPE用カリキュラムの共同開発と実践によって、QOL(Quality Of Life;クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)向上を目指す支援策を提案できる、将来のIPWを目指した学生を育成する。

概念図